「お客様からの要望だから、手入力するしかない」

先日、ある企業の事務員の方からこんな声をうかがいました。

「注文書のフォーマットがお客様ごとに違うんです。だから手入力するしかない」

届いた注文書を目で追いながら、金額とお客様名を管理表に打ち込む。

月末にはそれを集計し、そこから発注依頼書も手作りする。

取引先が増えるほど様式も増えますから、だから「手入力するしかない」となるわけです。

実はワンクリックでできる

ところが、これはAIとDXツールの組み合わせで割と簡単に解決できます。

書式が違っても、AIは注文金額やお客様名といった必要な値だけを読み取れます。

あとはWindows 11に標準搭載されているPower Automate Desktop(基本機能は無償で利用可能)が、管理表へ自動入力してくれる。

逆に、その管理表から発注依頼書を作成することもできます。

お客様に様式を揃えてもらう交渉は要りません。バラバラのまま扱えばいい。ここが肝です。

取引が増えるほど、利益率は下がる矛盾

先ほどの企業の様な“手作業”が多い企業は、「取引量に比例して、必要な事務員や業務量が増える」傾向にあります。

東京商工会議所の調査(2025年公表)なんかを見てみると、中小企業の受発注手段のうち電話・FAXが約25%を占めています。

紙で届いた場合、「AIやDXツールで自動化できる」って発想や文化が無いと、手入力し続けるしかありません。

一方、帝国データバンクの調査によると、2026年4月時点で正社員の不足を感じる企業は50.6%。

受注が増えれば事務作業も増える、けれど人は採れない。

売上は伸びたのに利益率が変わらない、という企業は決して珍しくないのです。

 

使ってはいるのに、変わらない現実

総務省の令和8年版情報通信白書(2026年7月公表)によると、何らかの業務で生成AIを利用している日本企業は86.4%。

前年の55.2%から急増しました。

ところが「組織的な取組はない」と答えた企業も27.0%あり、米国の1.4%とは大きな差があります。

2026年版中小企業白書でも、AIを活用しない理由の第1位は「活用する業務がイメージできていない」でした。

ツールは手元にあるのに、自社のどの業務に効くのかが見えていないのです。

「AIを使った業務設計」は事務員の仕事か?

事務の仕事は、届いたものを正確に、期日までに処理すること。

この意識が強いほど、「そもそもこの作業は必要か」と問い直す発想は生まれません。

例えばAIを使った自動化を試す時間も、試していい立場も与えられていないからです。

裏を返せば、これは担当者の問題ではなく、経営とリーダー層の設計の問題ということになります。

「処理」から「設計」へ

必要なのは高額なシステムではなく、“業務を棚卸しして小さく試すスキームと時間”です。

2026年版中小企業白書では、ITツール活用の効果を高めた取組として「現場からの意見収集」「段階的な導入」「従業員への研修・勉強会」が上位に挙がっています。

まずはリーダー層が、その半日をつくるところから。

自社のどの作業が自動化できるのかを見極める目を持てれば、明日からの景色は変わります。